白緑刀鬼切草紙

 かまぼこ隊と同期の隊員の話。オリジナルの呼吸を使います。
 
  • 第一話 竈火

     空の青が橙色に染まっていく。逢魔が時といわれる頃合いに、ひとりの子供が山の道に立っていた。歳は十を少し過ぎたばかりか。小柄な体に日焼けて褪せた赤い着物をまとい、少女趣味な大きなリボンで毛先の跳ねた癖のある髪をひとつに結っていた。腰には一振…

  • 第二話 猪頭

     鬼滅隊の選抜が始まった。は枝垂れた藤が作る薄紫の幕を通り抜けた。普通の、四季の理に従った山の光景が広がっている。は安堵した。「あぁよかった。山の中は冬で雪が降ってた、なんてことになってたら死んでたぞ。あんだけ藤が咲いてんだ、春も夏も冬もめ…

  • 第三話 稲光

     伊之助と別れてから、鬼の襲撃もなく夜が明けた。朝日に目を細めながら、は安心して気を緩めた。日光があるところに鬼は出てこない。 は睡眠をとり、夕暮れ前に起きて水と食料を求めて歩き出した。「うっ……こりゃあ……」 濃厚な緑の匂いをかき消す血と…

  • 第四話 選抜

    「男……?」 善逸は自分が耳にしたことが聞き間違いであることを祈るかのような、妙に切実な様子でに問い返した。「そんな可愛いリボンつけて着物を着ていて、男……?」「ああ、そうだ」 は善逸の様子に頓着せず、あっさりと肯定した。腰に回された善逸の…

  • 第五話 鎹鴉

     は選抜を生き残った面々をみた。善逸、炭治郎、それから顔に傷のある少年と蝶と戯れている少女。 選抜の開始の合図をした双子の童子が、今は隊服と階級の説明をしていた。「今からは鎹鴉をつけさせて頂きます」 白髪の童子が手を鳴らすと、周囲の木々の枝…

  • 第六話 浅草

    「え、そっちに行くの?」 善逸の間の抜けた声が、青空にぽかんと浮かんだ。は立ち止まって振り返った。善逸がおいていかれた子供のような顔をしていた。 周囲に田園が広がる十字路の岐路だった。と善逸はそれぞれ別な方向に足を向けている。焦った様子で善…

  • 第七話 氷鬼

     炭治郎が消えた。花の紋様が姿を隠し、白昼夢のような光景が終わると共に炭治郎までいなくなった。炭治郎が押さえつけていた鬼もいない。 花の幻からは鬼の味がした。ということは、だ。「炭治郎が鬼に攫われた……! た、大変だ。助けに行かねえと」 慌…

  • 第八話 医者

     クロキチが案内した先にあったのは、広い庭のある立派な家だった。塀越しにも濃厚な鬼の気配がにも感じられた。今まさに戦闘中らしく、物騒な音が聞こえてくる。 息を吸う。足に力を入れ跳躍。とん、とわずかな音を立てて塀の上に着地した。眼下に素早く視…

  • 第九話 鼓音

    「頼むよ! 頼む!」 そんな悲痛な叫びが聞こえてきたのは、と炭治郎が次の任務に向かって畦道を歩いている時だった。 道の真ん中で少年が泣いていた。おさげ髪の少女の腰に抱きついて身も世もなくすがりついている。「結婚してくれ! いつ死ぬかわからな…